解雇には主に4つの類型があります

本記事では、このうち最も典型的な「能力・適性不足による普通解雇」を取り上げ、その正しい手順を解説します。懲戒解雇・整理解雇・休職期間満了については、別の記事で取り上げる予定です。

1. そもそも「普通解雇」はどれくらい難しいのか

日本では、労働契約法第16条により、「客観的に合理的な理由」があり、かつ「社会通念上相当」と認められない解雇は、権利の濫用として無効になるとされています。これを「解雇権濫用法理」と呼びます。

つまり、解雇が有効と認められるには、次の2つの条件を両方とも満たす必要があります。

多くの経営者が驚くポイント

「何度注意しても直らないから解雇した」——これだけでは、不当解雇と判断されることが多いのが実情です。裁判所は、口頭での注意だけでなく、書面での警告、改善の機会の付与、段階的な懲戒処分などを経た上で、なお改善が見られない場合にようやく解雇を認める傾向にあります。

逆に言えば、正しい手順を踏んでいれば、解雇が認められる可能性は高くなります。以下では、その「正しい手順」を具体的にご説明します。

2. 解雇の正しい手順——5つのステップ

従業員に問題がある場合でも、いきなり解雇するのではなく、段階的に対応を重ねていくことが重要です。以下の5つのステップを順に踏んでいくことで、万が一訴訟になった場合にも「会社として十分な対応をした」と評価されやすくなります。

1

口頭での注意・指導

問題行動があったら、まず口頭で注意します。「遅刻が多い」「業務指示に従わない」など、何が問題なのかを具体的に伝え、改善を求めます。

  • 最大のポイント:注意した日時、内容、相手の反応を必ずメモに残してください。後日の証拠になります
2

書面での注意(指導書・注意書)

口頭注意で改善しない場合、書面で正式に通知します。書面には次の3点を明記してください。

  • 問題行動の具体的な事実(日時、場所、内容)
  • 改善を求める内容
  • 改善の期限

従業員には受領のサインをもらいましょう。サインを拒否された場合は、「本人に手渡した」旨を別の社員に立ち会ってもらい、その事実を記録しておきます。

3

始末書の提出を求める

書面での注意でも改善が見られない場合、始末書の提出を求めます。始末書は、「本人が問題を認識していた」ことの証拠になります。提出を拒否された場合でも、「始末書の提出を求めたが拒否された」という事実自体が記録として意味を持ちます。

4

懲戒処分(減給・出勤停止等)

それでも改善しない場合、就業規則に基づいて懲戒処分を行います。戒告(かいこく:口頭や書面で注意する処分)、減給、出勤停止など、解雇よりも軽い処分を先に経ていることが重要です。

  • 懲戒処分を行うには、就業規則に懲戒規定が定められていることが前提です
  • 処分の内容と理由は書面で通知しましょう
5

普通解雇

ステップ1から4を経て、なお改善が見られない場合に、ようやく普通解雇を検討します。能力・適性不足を理由とする普通解雇では、ここまでの段階的対応の積み重ねが決定的に重要です。解雇にあたっては、以下の手続きが必要です。

  • 解雇予告:少なくとも30日前に予告するか、30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)を支払う必要があります(労働基準法第20条)
  • 解雇理由証明書:従業員から求められた場合、解雇の理由を記載した証明書を交付する義務があります(労働基準法第22条)

ポイント:この5つのステップ全体を通じて、「記録を残すこと」が最も重要です。注意した日時、内容、従業員の反応、書面のコピー——これらの記録が、会社が適切に対応したことの証拠になります。

3. よくある失敗パターン——こうすると負ける

当事務所にご相談いただく中で、よく見られる失敗パターンをご紹介します。

失敗1:いきなり解雇する

段階的な対応を経ずにいきなり解雇すると、ほぼ確実に不当解雇と判断されます。「もう我慢の限界だ」という気持ちは理解できますが、法律は感情ではなく手続きで判断します。

例外として、横領、暴力、重大な犯罪行為など、職場秩序を著しく乱す行為があった場合は、即時解雇が認められる場合があります。ただし、この場合でも証拠の確保と手続きの適正さは求められます。

失敗2:記録を残していない

「何度も口頭で注意した」と主張しても、記録がなければ裁判所では「注意した証拠がない」と評価されます。裁判では「記録にないことは、なかったこと」と同じです。

注意・指導の都度、日時、場所、具体的な内容、相手の反応を記録しておく習慣をつけてください。メールでの注意であれば、その送受信記録が自動的に証拠になります。

失敗3:就業規則がない・古いまま放置している

就業規則がなければ、懲戒処分の根拠がなく、段階的な対応を取ることが難しくなります。常時10人以上の従業員を雇用する事業場では就業規則の作成・届出が義務ですが(労働基準法第89条)、10人未満の会社でも、就業規則の作成は強くおすすめします

就業規則は、トラブルが起きたときに会社を守る「盾」になります。特に、服務規律と懲戒規定は、問題社員への対応に不可欠な条項です。

失敗4:退職勧奨と解雇を混同する

退職勧奨(たいしょくかんしょう)とは、会社が従業員に自主的な退職を促すことで、解雇とは法的に全く異なります。退職勧奨であれば、従業員が応じた場合は「合意退職」となり、解雇権濫用法理の問題は生じません。

ただし、退職勧奨が執拗に繰り返されたり、退職を強要するような言動があった場合は、「実質的な解雇」あるいは「違法な退職強要」と判断されるリスクがあります。退職勧奨を行う際は、回数・時間・言い方に十分注意してください。

4. 解雇トラブルが起きた場合のコスト

解雇をめぐるトラブルが訴訟や労働審判に発展した場合、会社が負担するコストは想像以上に大きくなります。

労働審判 申立てから約3か月で結論が出ます。解決金の相場は給与3か月分~6か月分程度が目安です。
訴訟 1年以上かかることも珍しくありません。敗訴すると、解雇日から判決日までの賃金全額(バックペイ)の支払いを命じられる可能性があります。1年間争えば、それだけで年収相当額の支払いリスクが生じます。さらに、復職命令が出されることもあります。
弁護士費用 着手金として50万円以上が目安です。訴訟が長期化すれば、追加の費用も発生します。
その他の負担 裁判対応のための社内の時間的コスト、従業員の士気への影響、企業イメージの低下なども無視できません。

「最初から弁護士に相談していれば、ここまでのコストは避けられた」——そうおっしゃる経営者の方が非常に多くいらっしゃいます。解雇を実行した後に弁護士に相談するのではなく、解雇を検討し始めた段階でご相談いただくことで、正しい手順をアドバイスし、トラブルを未然に防ぐことができます。

5. まとめ——解雇を考えたら、まず相談を

この記事のポイントをまとめます。

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