1. AIはここまで来た——「質問応答」から「エージェント」へ

2023年頃のAIを覚えていますか。質問を入力すると答えが返ってくる。文章を書いてくれる。翻訳もしてくれる。確かに便利でしたが、あくまで「ツール」でした。人間が逐一指示を出し、結果を確認し、次の指示を出す。その繰り返しです。

ところが、2025年から2026年にかけて、AIは大きな転換点を迎えました。「エージェントAI」と呼ばれる新しいタイプのAIが登場したのです。

エージェントAIの特徴は、指示を与えると、自分で調べ、考え、複数のステップを踏んで仕事を完了させることです。単なる質問応答ではなく、一連の業務を自律的に遂行します。

たとえば、こんなことが実際にできるようになっています。

「人間が1時間かけていた作業が、5分で終わる」——こういう場面が、いま急速に増えています。もちろん、すべてがそうなるわけではありませんが、定型的な業務、情報の整理・要約、文書の下書きといった領域では、劇的な効率化が進んでいます。

2. 中小企業こそAIの恩恵を受けられる理由

「AIは大企業のもの」と思われるかもしれません。確かに、かつてのITシステムは導入に多額の費用がかかり、専門の部署が必要でした。しかし、今のAIは違います。

大企業には、法務部、人事部、経理部、情報システム部など、専門の部署があります。一方、中小企業では経営者や少数の社員がこれらの業務を兼務していることが普通です。だからこそ、AIの「何でも手伝える」という性質が活きます。

具体的にどんな場面で活用できるか、いくつか例を挙げてみましょう。

人を一人雇うよりも、圧倒的に低コストで「もう一人の社員」を手に入れるようなものです。

ただし、「何でもできる」は「何でも正しい」とは違います。AIの出力には確認の仕組みが必要です。この点は重要ですので、別の記事で詳しく取り上げる予定です。

3. 当事務所でも変わったこと——少しだけご紹介

実は、当事務所でも日々の業務にAIを活用しています。弁護士業務は文書を扱う仕事ですから、AIとの相性は非常に良いのです。

たとえば、こんな場面で活用しています。

結果として、一人の弁護士であっても、充実した法務サポートをご提供できるようになりました。AIが定型的な作業を引き受けてくれることで、弁護士はより本質的な判断——法的リスクの評価、交渉戦略の策定、依頼者の利益を最大化するための方針決定——に集中できるのです。

AIは弁護士の仕事を「奪う」のではなく、弁護士の仕事の「質を高める」ものです。これは、あらゆる業種に当てはまることだと考えています。

4. AIを活用するために、まず何をすべきか

ここまで読んで、「うちでもAIを使ってみたい」と思われた方もいらっしゃるかもしれません。では、何から始めればよいのでしょうか。

いきなり大きなシステムを導入する必要はありません。まずは以下の3つから始めてみてはいかがでしょうか。

1

試しに使ってみる

ChatGPTやClaudeなどの生成AIには無料版があります。まずは日常業務の一部をAIに任せてみてください。議事録の要約、メールの下書き、アイデアの壁打ち、調べ物のまとめなど、手軽に始められるところから試すのがおすすめです。

2

社内でルールを決める

便利さと安全性のバランスが大切です。何を入力していいか、何はダメか、最低限のルールを決めておきましょう。たとえば、初期段階では「顧客の個人情報は入力しない」「社外秘の情報は入力しない」といった基本ルールを設けておくのが無難です。

また、一つ重要なポイントがあります。企業で使うなら、必ず有料版を使ってください。できるならビジネス向けプランで提供されているものを選ぶべきです。無料版と有料版・ビジネス版では、入力データの取扱いに大きな違いがあります。何もわからない初期の段階であっても、この2点——有料版を使う、ビジネス版があるならそちらを使う——は最低限守っていただきたいルールです。

ただし、ここで一つ、正直に申し上げたいことがあります。

「個人情報を入れない」「秘密情報を入れない」——これだけ守っていれば安全だと思っている限り、AIの本当の力を知ることはできません。当たり障りのないデータだけを入力して「まあ便利だな」で終わってしまうと、AIが本来できることの一部しか見えないまま、本質を見誤ってしまう可能性があります。

AIを本当に業務に活かすには、いずれ実際の業務データを扱う場面が出てきます。そのとき、安全にそれを行うための仕組み——適切なサービスの選択、データの取扱いルール、情報管理体制——を整えておくことが必要です。これは「何を入力してはいけないか」を並べるだけでは不十分で、専門家の知恵が要る領域です。

3

専門家に相談する——そして、AIの本質を見誤らないために

AIの活用が進むと、情報管理、著作権、個人情報保護など、法的な論点が出てきます。早い段階で弁護士に相談しておくと、後からトラブルになるリスクを減らせます。AI利用規程の策定や、AIサービスの利用規約のチェックなども、弁護士がお手伝いできる領域です。

そしてもう一つ。無料版のチャットだけでAIの能力を評価しないでください。それは、スマートフォンの電卓アプリだけを使って「コンピュータとはこういうものか」と判断するようなものです。エージェントAIの登場により、AIは「質問に答える」段階から「複雑な仕事を自律的にこなす」段階に入っています。その本当の力を知るには、有料版・ビジネス版の環境で、実際の業務に近い形で使ってみる必要があります。

安全を考慮することは絶対に必要です。しかし、安全を理由にAIの本当の力を知ることから目を背けてはいけません。変化の速度は加速しています。常にアンテナを張り、AIに何ができるのかを自分の目で確かめ続ける姿勢——それこそが、これからの経営者に求められる最も重要な能力の一つではないでしょうか。

「まずは小さく始めて、効果を実感してから広げていく」——これが中小企業のAI活用の王道です。ただし、「小さく始める」ことと「本質を見ないまま止まる」ことは違います。安全な環境を整えた上で、AIの本当の能力を確かめてみてください。その先に、これまで想像しなかった可能性が見えてくるはずです。

5. まとめ——「使わない」という選択肢は、いずれなくなる

AIの進化は止まりません。これは技術の性質として、加速こそすれ減速しないものです。

Anthropic社のCEOであるDario Amodeiは、2024年10月に発表したエッセイ「Machines of Loving Grace」の中で、2026年には「データセンターの中の天才たちの国」が作られるという極めて刺激的な予測を述べています。人間の能力を超える処理ができるAIが、さらに自らを賢くしていく。それがデータセンターの中で行われ、加速度的な進化が生じる——。

このようなことは、もはや将来のことではなく、現在進行形で起きています。私自身、AIのエージェントを業務で使い始めてから、その思いを日々強くしています。Amodeiの予測が現実になりつつあるということを、実務を通じて肌で感じています。

大企業は既にAI活用を本格化させています。中小企業が「まだ早い」「うちには関係ない」と言っているうちに、競合との差が開いていく可能性があります。

しかし、逆に言えば、今から始めれば、同業他社に先んじることができます。AIは大企業の専売特許ではありません。むしろ、機動力のある中小企業だからこそ、素早く導入し、素早く効果を出せるという強みがあります。

変化の波に乗るか乗らないかではなく、「使わない」という選択肢はいずれなくなります。であれば、早く始めた方が有利です。そのための第一歩を、今日から踏み出してみてください。

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