1. 「リープフロッグ」という現象
「リープフロッグ(leapfrog)」という言葉をご存じでしょうか。直訳すると「カエル跳び」。それまでの発展段階を飛び越えて、一気に最先端に到達する現象を指す言葉です。
もっとも有名な例は、アフリカ諸国の通信事情です。アフリカの多くの国々では、固定電話のインフラが全国に行き渡る前に、携帯電話が爆発的に普及しました。先進国が経験した「まず固定電話を敷設し、その後に携帯電話へ移行する」という段階を飛び越えて、いきなり携帯電話の時代に入ったのです。
決済の分野でも同じことが起きています。銀行の振込ネットワークやクレジットカードのインフラが十分に整っていない地域で、スマートフォンによるモバイル決済が先に普及しました。銀行口座を持たない人が、スマートフォンひとつで送金や支払いを行っています。
リープフロッグとは、「それまでの段階を経ずに、一気に最先端に飛ぶ」現象です。
途中の段階を経験していないことが、むしろ有利に働く。古いインフラや過去のやり方に縛られないからこそ、新しい技術をまっすぐに取り入れることができる——それがリープフロッグの本質です。
2. AIで起きているリープフロッグ——プログラミングなしで全員がツールを作れる
では、AIの世界で起きているリープフロッグとは何でしょうか。
それは、プログラムを開発するための専門的なスキルがなくても、誰もが自分の業務に合ったツールを作れるようになったということです。しかも、場合によっては「自分がプログラムを作っている」と意識することすらなく使えるようになりました。
これがどれほど大きな変化か、従来のやり方と比べてみましょう。
従来であれば、業務を効率化しようと思ったら、まず要件を定義し、それをプログラマーやシステム開発会社に依頼し、開発費用を払い、完成を待つ必要がありました。中小企業や個人の専門家にとって、これは決して低いハードルではありませんでした。
ところが今は、AIに「こういうことをやりたい」と自然な言葉で伝えれば、AIがそれを実現するためのツールを作ってくれます。プログラミングの知識は必要ありません。
つまり、「アイデアがあるかどうか」「AIを使おうという意識があるかどうか」が、業務の効率化やAI活用の鍵を握る時代になったのです。
技術的なスキルではなく、発想と意識が決定的に重要な時代になりました。
3. 私自身の経験——RPAの挫折からAIへ
ここからは、少し個人的な話をさせてください。
当事務所でも、これまでさまざまな効率化を模索してきました。Googleの各種サービスを活用して業務フローを構築したり、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)の導入を検討したこともあります。
しかし、RPAについては、結局うまくいきませんでした。RPAを効果的に使うには、業務の要件をきちんと定義する必要があります。十分に定型的な業務でなければ効果が出にくく、外部のベンダーと組んで導入するほどの費用対効果が見合わないのではないか——そう判断せざるを得ない場面がありました。
法律業務向けの既存サービス(リーガルテック)も複数導入してきました。それぞれ有用ではあるのですが、「ここがもう少しこうなれば」と感じるところが出てきます。自分なりに「こう改良すればいいのではないか」というアイデアは浮かぶのです。しかし、それを実際に形にする——プログラムとして実装する——ことは、私にはできませんでした。
それが今、AIによって可能になりつつあります。
「こういう機能がほしい」「こういう処理をしたい」とAIに伝えれば、AIがそれを形にしてくれます。専門家一人でも、自分の業務に最適化されたツールを自分で作れる。そういう時代が、現実に到来しています。
これがまさにリープフロッグです。プログラミングを学ぶという「途中の段階」を経ずに、一気に「自分の業務に合ったツールを作れる」段階に飛ぶことができる。中小企業や個人の専門家にとって、これは非常に大きな意味を持つ変化です。
4. ドラえもんが目の前に現れた——大げさではなく
適切な比喩かどうかはわかりません。しかし、率直な感覚を述べさせてください。
私はまるでドラえもんが、一定の範囲では本当に誕生して、私たちの目の前に現れたような——そんな感覚を抱くことすらあります。
もちろん、四次元ポケットから何でも出てくるわけではありません。AIにも限界はあります。間違えることもありますし、判断を丸投げできるわけでもありません。
しかし、「こんなことができたらいいのに」と長年思っていたことの多くが、AIの力で実現可能になりつつあります。しかもそれは、大企業にだけ起きていることではありません。むしろ、リソースの限られた中小企業や個人の専門家にこそ、大きなインパクトをもたらす変化です。
大企業には、もともとシステム開発の部署があり、予算があり、外部のベンダーに依頼する体制があります。つまり、AIがなくても「自社に合ったツールを作る」ことがある程度できていました。
一方、中小企業や個人の専門家は、そうした体制を持っていないことがほとんどです。だからこそ、AIによって「誰でもツールを作れる」ようになったとき、その恩恵を最も大きく受けるのは、これまでその手段を持たなかった人たちなのです。
持たなかった者が、一気に持てるようになる。これこそがリープフロッグであり、AIが中小企業にもたらす最大のインパクトだと、私は考えています。
5. まとめ——アイデアと意識が、すべてを変える
AIの時代に最も重要なのは、プログラミングのスキルではありません。
- 「自分の業務のこの部分を、こう改善できるのではないか」というアイデアを持つこと
- 「AIを使ってみよう」という意識を持ち続けること
この2つがあれば、技術的なスキルの壁は、AIが越えてくれます。
中小企業の経営者の皆さんには、ぜひ一度、こう考えてみていただきたいのです。「もしドラえもんがいたら、自分の仕事のどこを変えてもらうか」と。
その答えの多くは、もうAIで実現可能かもしれません。
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