商標登録だけでブランドは守れません。不正競争防止法、著作権、意匠権…複数の法律を組み合わせた「知財ミックス」で、あなたのビジネスを多角的に保護しましょう。
「商標登録をしていなければ、名前を守る手段はないのか?」――そうとも限りません。不正競争防止法は、商標登録の有無にかかわらず、一定の条件を満たせばブランドを保護する法律です。
需要者の間に広く認識されている商品名・店名・ロゴなどと同一・類似の表示を使い、混同を生じさせる行為。商標登録がなくても、「地域でよく知られている」だけで保護される可能性があります。
刑事罰あり:5年以下の懲役又は500万円以下の罰金
著名な商品名・ロゴなどを無断で使用する行為。混同がなくても(全く異なる分野で使った場合でも)差止め・損害賠償が可能です。「ただ乗り(フリーライド)」を許さない制度です。
他人の商品のデザイン・形状をそのままコピー(デッドコピー)した商品を販売する行為。発売から3年間保護されます。商品パッケージのデザインもこの保護の対象になりえます。
「堂島ロール」で一世を風靡した大阪の洋菓子メーカーが、商号を「モンシュシュ」に変更した際に起きたトラブルです。
神戸の老舗洋菓子メーカー・ゴンチャロフ製菓は、「MONCHOUCHOU/モンシュシュ」の商標を昭和56年(1981年)から保有していました。
一方、「堂島ロール」で急成長した被告会社は、2007年に商号を「モンシュシュ」に変更。店舗看板やパッケージにも「モンシュシュ」を大きく使用しました。
ところが、商号変更にあたって類似する商標の調査を行っていなかったのです。
大阪地裁は商標権侵害を認定し、約3560万円の損害賠償を命じました。控訴審の大阪高裁では賠償額が約5140万円に増額。「モンシュシュ」の名称使用の差止めも命じられ、被告は商号を「モンシェール」に変更して対応しました。
※ 本件は商標法に基づく商標権侵害事件であり、不正競争防止法は適用されていません。
東京都内でレンタルカート事業を展開していた会社が、任天堂の人気ゲーム「マリオカート」の略称「マリカー」を社名に使用し、さらにマリオ等のキャラクターのコスチュームを貸与して公道を走行させるサービスを提供していました。
知財高裁は、「マリカー」が任天堂の著名なゲーム「マリオカート」の略称として需要者の間に広く認識されていると認定。被告の行為は不正競争防止法2条1項2号(著名表示冒用行為)に該当すると判断しました。
損害賠償として約5000万円の支払いが命じられました。
商標登録をしても、管理を怠ると権利を失うことがあります。
寿司店「小鯛雀鮨鮨萬」は、「招福巻」の登録商標を保有していました。節分の恵方巻が全国に広まる中、大手スーパー・イオンが「十二単の招福巻」の名前で恵方巻を販売。商標権者は使用差止めと約2300万円の損害賠償を請求しました。
大阪高裁は、「招福巻」は恵方巻の普通名称に当たると判断。「招福」はもともと「福を招く」という意味の日本語であり、「巻」は巻き寿司の接尾語。遅くとも平成17年頃には全国のスーパーで広く使われていたと認定しました。
結果、商標権の効力が及ばないとして、商標権者の請求を全面的に棄却しました。
鹿児島の坂元醸造は、1975年に天然米酢の壺造り酢を「くろず(黒酢)」と命名しました。熟成するほど色が黒くなるこの酢に、実にぴったりのネーミングです。
ところが、当時は知的財産に対する意識が十分でなく、「くろず」を商標出願しませんでした。その結果、「黒酢」は食品の一般名称として広まってしまい、坂元醸造が後から権利を取得しようとしても、もはや手遅れでした。
この「苦い経験」を踏まえ、坂元醸造は現在では知財保護を最重要視。独特な壺の形や壺畑の風景の商標登録、新ブランド「Kurozu Farm」の商標取得、海外出願など、積極的な知財戦略を展開しています。
海外ブランド保護の問題は、大企業だけの話ではありません。佐賀県の伝統工芸品「有田焼」も、冒認商標の被害に遭っています。
2002年11月、中国の個人が「有田焼」を中国で商標出願。2004年11月に中国商標局で登録が認められてしまいました。
2010年の上海万博に合わせた「佐賀県産品展」では、佐賀県は自県の誇る伝統工芸品に「有田焼」の名称を使用できない事態に陥りました。苦肉の策として「日本有田産」「ARITA JAPAN」と表記するしかありませんでした。
ブランドを守るには、商標権だけに頼るのではなく、複数の知的財産権を組み合わせる「知財ミックス」が効果的です。
| 権利 | 何を守るか | 保護期間 | 中小企業での活用度 |
|---|---|---|---|
| 商標権 | 名前・ロゴ・ブランド名 | 10年(更新で半永久) | ★★★ 最重要 |
| 意匠権 | 商品のデザイン・パッケージ | 出願から25年 | ★★ |
| 著作権 | イラスト・写真・文章 | 著作者の死後70年 | ★★ |
| 特許権 | 技術・製法 | 出願から20年 | ★(業種による) |
| 不正競争防止法 | 周知な名称、商品形態、営業秘密 | 条件付き(形態は3年) | ★★ 補完的 |
| 育成者権 | 植物の新品種 | 登録から25年(樹木は30年) | ★(農業事業者) |
京都の男前豆腐店(売上20億円超)は、価格競争が激しい豆腐業界でユニークなネーミング・パッケージ・ウェブサイトを武器にブランドを確立しました。
知財保護では、商標権(「男前豆腐店」「風に吹かれて豆腐屋ジョニー」等)に加え、意匠権(容器のデザイン)、製法ノウハウの秘密管理を組み合わせています。それでも類似商品の出現は完全には防げず、知財保護の継続的な取り組みが必要であることを示しています。
福岡県が開発したいちご「あまおう」は、品種登録(育成者権)で品種の盗用を排除しつつ、商標登録(「あまおう/甘王」)でブランド名を保護。栽培者を限定して品質を管理し、高価格戦略を実現。知財権を組み合わせたブランド戦略の好例です。
老舗化粧品メーカー・クラブコスメチックスは、「LOVE」「ラブ」を化粧品分野で商標登録していました。
インターネット通販事業者がこれを知らずに、自社の化粧品ブランドに「Love cosmetic」の名称を使用。裁判所は、「cosmetic」は化粧品の普通名称で識別力がなく、要部(識別の中心となる部分)は「Love」であると判断。原告商標「LOVE」と類似するとして、約1602万円の損害賠償を認容しました。
お店のレシピ、製造ノウハウ、顧客リスト、取引条件…これらは営業秘密として法律で保護される可能性があります。ただし、保護を受けるためには3つの条件を満たす必要があります。
秘密として管理されていること。「マル秘」表示、アクセス制限、パスワード管理等
事業活動に有用であること。客観的に経済的価値がある情報
公然と知られていないこと。公開されている情報は対象外
特に飲食業界では、従業員が独立する際にレシピや顧客情報を持ち出すケースが問題になります。元祖長浜屋事件のように、元従業員トラブルは商標だけでなく営業秘密の観点からも対策が必要です。
あなたのビジネスのブランド保護の現状をチェックしてみましょう。
商標登録から不正競争防止法の活用、契約書の整備まで。弁護士・弁理士として総合的にサポートいたします。